自身が還暦を迎えた。 還暦を迎えた父を、私は「父はもうそんな年になってしまったのか」 と思ったのを思い出す。 自分がそういう年になってしまった。 年を重ねる毎に時間がたつのが早く感じられるが、 時代の流れ、時の流れも速さを増しているのではないだろうか。 5Gの時代といわれ、インターネットとスマホが生活の一部となり、 もはや無くてはならないものと化してきている。 父が還暦を迎えた頃、よくラジオドラマを聞いていた。 音だけのドラマであるが、それは自身を限りなく想像の世界へと 引き込んでいく。 本当に好きな本は、映画化されても見に行かない。と誰かが言っていたが、 自分のイメージは遥かに映像化されたそれを超えていると思う。 ふと久しぶりに立ち寄ったお店で、 「開店した当時いらっしゃいませんでしたか?」と言われ、 あれからもう10年以上もたったのだということに驚かされ、 「その時はお友達か誰かとご一緒に?」 そんな昔のことをよく覚えていて下さったものだと感激した。 一時おしゃべりと、店内一杯に優しく広がる音楽を満喫した。 お代わりはいかがですかと進めて頂いたが、 入れ替わりに出て行ったお客が最後で私たちだけだったのと、 閉店時間を過ぎようとしていたので遠慮して店を出た。 ゆっくりとした穏やかで優しい時間が心地よかった。 たまに、あの頃のラジオドラマをもう一度聞いてみたいと思うことがある。 中でも、シリーズもので一週間程度続いていただろうか、 バックにはマイルスデービスのカインドオブブルーが流れ、 「美人物語」というタイトルで、原作は人気作家の片岡義男。 声優が大好きな堀勝之助だったのを覚えている。 あのときのカセットテープはもう残っていないだろう。 30年以上前の話である。 【川中洋一】 |