まじないのかけられた丈夫で長持ちする傘

もうあれこれ10年近く手元にある傘がある。
10年以上使える傘などどこにでもありそうなものであるが、
我が家の傘はある時期とても短命だった。

新しく買って来ても傘は直ぐに骨折したり、行方不明になるのである。
私自身も思い返せば、ちゃんばらの刀代わりにしたり、
柄のところにものをぶら下げて天秤棒の代わりにしたり、バット代わりに振り回したりと、
雨の時に使う以上にいろいろな使い方(使っていたのではなく無茶をしていたのであるが)を
したものであるから、直ぐに壊れたのだと思うが、それでも当時の傘は、
もう少し重くて丈夫だった様にも思える。

自分の傘が壊れると、そこに置いてある新しいものを持って行ってしまうので、
次から次へと痛んでしまう。
ちょっとでも痛むと新しいものを持って出てしまう。

あるとき、手元に傘がなくなったので、
近くのホームセンターで60㎝の濃緑無地の特価品を2本買った。
これは父親専用だ。といっても聞かない子供たちに、
父親としての威厳のない私は「あるまじない」を傘に施したのである。

それからというもの、傘は骨折どころかかすり傷さえしなくなった。
というか、ご主人様以外と外出することは無くなったのである。
未だ出番のない一本には650円の値札がついたままロッカーに収められている。
「まじない」が効いたのである。
この傘をつれて出かけ、「こんな傘を持って歩く人は、どんな人かと思った」
と料理屋の女将に言われたこともあった。そんな特別なまじないであった。
あれ?どこかに置き忘れたかなと思っても、知らぬ間に傘立てに戻ってきていることもあり、
見当たらなかったのは思い違いをしていたのか?と不思議なぐらいである。

柄のところはすっかり日に焼けて色が変わってしまったが、まじないは今でもかかったままである。

傘立てに立てた時、一番良く見える柄のところに 黒のマジックでくっきりと
フルネームの入った傘は、我が家のわんぱくBOSEには、
とても恥ずかしくて持って出られる代物ではなかったのである。

【川中洋一】